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東京地方裁判所 昭和43年(行ク)3号 決定

申立人 丸善タクシー株式会社

被申立人 東京陸運局長

訴訟代理人 高橋正 外四名

主文

本件申立てを却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

一、本件申立ての趣旨及び理由は、別紙(一)ないし(三)記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は別紙(四)記載のとおりである。

二、疎明によれば、相手方がタクシー営業を営む申立人に対し、道路運送法第一五条違反(いわゆる乗車拒否)を理由として、同法第四三条の二第一項の規定にもとづき申立人主張のとおりの輸送施設(タクシー車輛)使用停止等の処分をしたことが認められる。

三、そこで、右処分により生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要があるかどうかについて検討すると、疎明によれば、本件処分により、申立人は、(1) 運行停止車輛(計一三輛)の運行によつて得べかりし利益の喪失や停止期間中運転者に支払うべき給料等として合計約七〇万円位の金銭的損失を蒙ること、(2) 業界及び運転手間における信用が低下し、事業運営上不利益を受けるであろうこと、(3) 今後相手方に対し増車申請をしても、処分を受けない事業者に比しなんらかの不利益を受けるおそれがあることが認められる。しかしながら、まず、右(1) の点について疎明をみると、申立人が現在保有するタクシー車輛は四二輛で、従来月額平均約一、五〇〇万円の事業収入を得ていたものであり、経営の基礎も必ずしも脆弱ではないと認められるところ、本件処分により申立人が蒙る金銭的損失は前記のとおり約七〇万円程度であるから、右損失が申立人にとつて回復の困難なものとは認められず、また、(2) (3) については、そのような信用低下や増車計画上の不利益が避けられないとしても、現在の段階において、それによつて申立人の事業活動が重大な支障を受け、又は事業の存立が脅かされるなどの具体的な事情の存在を認めるべき疎明はない。これを要するに、右(1) ないし(3) の損失ないし不利益は、いまだ行訴法第二五条第二項にいう回復の困難な損害にあたるものとは認められず、他に本件処分によつて生ずる回復困難な損害を避けるため緊急の必要があることについての主張及び疎明はない。

四、よつて、本件申立てを却下することとし、申立費用の負担につき民訴法第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 緒方節郎 小木曾競 佐藤繁)

別紙(一)

請求の趣旨

相手方が申立人に対し、昭和四二年一一月一四日付六七東陸自一旅二第五四二〇号および同第五四二一号をもつてなした別紙記載のごとき輸送施設使用停止等処分は、本案判決の確定あるまでその執行を停止する。

訴訟費用は相手方の負担とする。

との裁判を求める。

請求の原因

一、(当事者の地位)

申立人(以下会社という)は、昭和三〇年二月より肩書地において免許を得て一般乗用旅客自動車運送事業を営むもので、事業区域は東京都の特別区及び武蔵野、三鷹市区域、現在保有する事業用自動車数は四二輛であり、また相手方は道路運送法第一二二条、同法施行令第四条第一項第一二号および第一三号にもとづいて同法第四三条および同条の二所定の権限を運輸大臣に代り行使しうべきものである。

二、(行政処分の存在とその内容)

相手方は昭和四二年一一月一四日、会社に対して道路運送法第一五条違反=すなわち同年二月一三日二一時頃会社の運転者桑名通浩(担当車輛品川5う三八六〇号車)が東京国際空港内国際線前タクシー乗車場において、旅客から運送申込みを受けた際、正当な理由がないにもかかわらず当該運送の引受けを拒絶した=という事由で六七東陸自一旅二第五四二〇号をもつて別紙記載一のごとき輸送施設使用停止等の処分を、また同じく同条違反=すなわち〈1〉同年四月二八日一六時一五分頃、会社の運転者高橋雅男(担当車輛品川5う三四二六号車)が大井競馬場前で営業中、旅客から運送申込みを受けた際、正当な理由がないにもかかわらず当該運送の引受けを拒絶した〈2〉同年六月二日二三時四五分頃、会社の運転者日向誠(担当車輛品川5う三六五八号車)が港区新橋四-二二-四地先において旅客から運送申込みを受けた際、正当な理由がないにもかかわらず当該運送の引受けを拒絶した=という事由で、六七東陸自一旅二第五四二一号をもつて別紙記載二のごとき輸送施設使用停止等の処分を、それぞれ行ない右各処分発令書はいずれも同年一二月一五日会社に交付された。

三、(本件処分の違法性)

しかしながら右各処分(以下単に本件各処分という)は、次の理由により違法である。

(一) 道路運送法第四三条等違反

本件各処分は前記のごとく道路運送法第一五条および第四三条に基いてなされたものであるが、右第一五条はその文理や各号の趣旨等に照らせば本来的には、自動車運送事業者自身による運送引受の拒絶を規制の対象とするものであり、ただそれのみでは同条の実効を保し難いところから、右事業に従業する運転者らの運送引受拒絶行為をも規制する趣旨と解すべきが相当である。したがつて、同条は本件のごとき一般乗用旅客自動車運送事業の場合にあつても、事業者自身の運送引受拒絶も運転者のそれをも、ともに規制することとなるところ、その違反に対しては同法第一三〇条第三号による刑罰が科されるほかは、行政上の制裁ないし不利益処分として、事業者自身に同法第四三条の輸送施設の使用停止等の処分が課されるだけで、運転者には何らの処分が定められていない。すなわちこと行政(民事)上の制裁に関する限り、運転者の不当な運送引受拒絶については、行為者たる運転者は放置され、かえつて事業者はその雇傭主であるという理由だけで、いかに指導監督を十分に尽していても、前記のごとき処分を免れないというのが、現行法の建前である。しかしながら運送引受をふくめ運行について、運転者が事業者らのコントロールの及ばない独自の管理支配の地位にあることは、経験則上疑いを容れないところであり、さればこそ法も、事業者に対しては運転者らへの指導監督を義務づけると同時に(自動車運送事業等運輸規則特に第二六条、道路交道法第七四条ほか参照)、またそれをもつて運転者らの非違に対する事業者の責任の限界を定めているのである(道路運送法第一三二条但書、民法第七一五条第一項但書ほか参照)。かかる法理は被傭者の違法行為に伴う使用者の責任についての一般則ないし条理ということができる。

しかるに道路運送法第四三条第一号は、何らの留保なしに運転車の運送引受拒絶があれば事業者を前記のごとき不利益処分に付しうるとしているのであつて、もし同条号、同法第一五条を文理に従い漫然と適用んるときは条理ないし憲法第三-条の定める法の適正手続の保障に反んると言わざるをえず、したがつて右のそしりを免れて同条号を適正に解釈適用とんれば、運転者の不当な運送引受拒絶に関する限り、事業者において当該運転者への指導監督につき相当の注意を払うことを怠つた場合にのみ所定の制裁を科しうるものとしなければならない。これが右のごとさ場合に関んる相手方の裁量権の限界というべきである。

しかるに本件の場合、相手方は会社が前記名運転者の運送引受拒絶に関んる指導監督について相当の注意を払つてきたにも拘らず、その事実の有無んら顧みようとせず、漫然右第四三条第一号等を適用して本件各処分を行なつたものであり、この点において本件処分は同条所定の裁量権の限界を踰越し、結局同条第一号および同条の二に違反したものと言わざるをえない。

(二) 権限濫用

右の点を暫く措いても、本件処分は下記の理由により相手方が右第四三条所定の裁量権を濫したものとのそしりを免れない。

(1)  処分基準が不明確であること。

相手方は従来から、運転者の乗車拒否・乗合行為・輸送中断などを理由に、一輛五日、一輛二〇日、五輛五日などといつた輸送施設の使用禁止処分を会社ら事業者に対して行なつてきたが、いまだかつていかなる程度の違反行為あつた場合にいかなる種類・程度の不利益処分を課するのかといつた処分の基準が明確に示されたことがない。

(2)  処分が恣意的で公正を欠くこと

現在東京都内で一日平均推定二〇〇〇件近い乗車拒否が行なわれているといわれており、東京旅客自動車指導委員会が自ら又は申告により摘発し相手方当局に通報する事例も相当数に上がるが、相手方はなぜか同委員会の通報を得たケースについては殆んど前記第四三条等の不利益処分を行なわず(今回の処分においては皆無である)、相手方が族客等からの直接通増又は東京都公安委員会から通報を受けたケース(本件の場合もすべて然り)については、逆に殆んど必ず右の処分に付している。

また運転者の非違に対する取締の態度も甚だ一貫せず、メーター不倒や不正料金などについては事業者へのみるべき制裁がないのに、乗車拒否=運送引受の不当拒絶等については、近時世論に促されて不当に制裁が厳しい実情にある。

(3)  処分が過酷であること

本件各処分に関する事由は、帰するところ一ないし二の運転者による乗車拒否行為を出でない(しかもそれぞれにつき運転者側に酌むべき事情さえある)のに、相手方はこれに対する事業者=会社への制裁としてそれぞ四輛五日、九輛五日という厳しい処分を選んだのであるが、現在における一車輛の一日平均の総収益は約一万一千五百円で、うち五三パーセントが運転者への賃金賞与などの経費で、休車することによつて事業者たる会社が支出を免れうるのは僅かに燃料費一二・五パーセントにすぎない。従つて本件各処分による会社が蒙る損害は一日一輛当たり金一万六百二十五円であるから合計約六百九十万円が見込まれる。而も保有車総数が四二輛でしかない原告会社にとつて、実にその三割に上る車輛を五日間も休止させるという、まことに苛酷な制裁といわざるをえない。

四、(本申立の理由)

叙上のごとくして本件処分は違法であり取消しを免れないところ、道路運送法所定の審査請求等に対する裁決をまつのでは本件処分の性質上原告はその執行により著るしい損害を蒙らざるを得ずよつてこれを避けるための緊急の必要があるので、本申立に及んだ次第である。

別紙

一、(六七東陸自一旅二第五四二〇号)

貴社経営の一般乗用旅客自動車運送事業については、道路運送法第一五条違反により同法第四三条の規定に基いて、下記のように、輸送施設の当該事業のための使用を、停止することを命ずる。

なお、この処分に伴い、同法第四三条の二第一項の規定に基いて、下記期間中当該事業用自動車の自動車検査証を東京都知事に返納し、自動車登録番号標および封印をとりはずしたうえ、その自動車登録番号標について東京都知事の領置を受けるべきことを命ずる。

1 使用を停止する輸送施設(車輛) 四輛

品川5う三四二六、三六五八、二九八〇

品川5え二四〇六

2 使用を停する期間

昭和四三年一月二〇から二四日まで五日間

二、(六七東陸自一旅二第五四二一号)

本文は右に同じ

1 使用を停止する檸送施設(車輛) 九輛

品川5う三五〇六、三四二五、三五九七、三五〇五、三六二八、三五九八、三六五九、三六八七、三七三六

2 使用を停止する期間

昭和四三年一月二五日から二九日まで五日間

別紙(二)

申立の理由第四項につき次の通り補充主張する。

第三項(二)の(3) にのべた如く会社は車輛台数僅かに四二台のタクシー会社であるところ、本件各処分によつて昭和四三年一月二〇日以降同月二九日迄の間において合計六五輛の休車を余儀なくされるのであるが、右によつて会社のうける直接的経済損失は約六九万円であり、一年間における会社の税込利益が昭和三九年度(昭和三九年四月一日~昭和四〇年三月三一日)金二、〇九四、三四三円、昭和四〇年度(昭和四〇年四月一日~昭和四一年三月三一日)金三、三一一、三五九円、昭和四一年度(昭和四一年四月一日~昭和四二年三月三一日)金四、五八一、三一四円であることからみれば、その負担は重いものといわねばならない。仮に将来において本件処分が取消されたとしても更に損害賠償請求をまたねばその損害は回復されず、しかも右の為には長年月と多大の失費を要することは顕著な事実であることからすれば、右負担は回復の困難な損失といわねばならない。

又、会社代表者は中小タクシー業界における指導的立場にあるが、本件処分により業界及び運転手仲間における信用を失墜するのみならず、優良運転手の招聘が困難になるという目に見えない損失をうけることも必定である。

更に最近の許可基準における増車許可(事業計画の変更による申請)においても被処分事業者には許可されないという不利益がみられ、この面における損害も測り知れないものがある。それに対し処分者においては本件処分が停止されたとしても何ら痛痒を感じることも又その事によつて公共の福祉に重大な支障はおろか何らの影響も及ぼす虞れもない。

別紙(三)

昭和四三年一月一八日附相手方の意見理由に対し、次の通り主張する。

一、第三項(二)相手方が従来とも処分の公正を期するため、内部的に処分内容の基準を定めていたとの点は争う。

相手方の処分は最近はともかく従来極めて恣意的・便宜的になされて来たものであり、又その基準はともあれ、処分自体が不公正なものであることは業界周知の事実である。

二、「被申立人の主張一」のうち

相手方が右掲記の理由をもつて処分したことは、処分書及び警告書において明らかなところであるが、右違反事実のうち、〈1〉は桑名が客の行動(横浜ですかと問返したところ、有無をいわせず交番にかけつけた)に憤慨したことからその客をのせず、結局他の客をのせてしまつたのであり、〈2〉は当時七号環状が相当こんでいたため、有料道路を通つたらといつたのに対し客がそのまま立去つたものであり、〈3〉もよつぱらい乗客が「大井ですか」と問返したところ、乗車拒否だと騒ぎ出したもので、以上は何れも必らずしも「何ら正当な理由のない」乗車拒否という事はできないものである。

三、「同二」のうち

損失額の計算根拠は全く不明であるが、自動車はその稼動如何にかかわらず一定の管理費、償却費を要する他、運転手の責に帰すべき理由によらない休車の場合、会社においてその賃金を負担しなければならないことは理の当然であり、単に得べかりし利益を逸するにとどまらず、休車にも拘らず支出される一車当り経費はこれ全て損失として会社が負担せざるをえないことは当然である

又会社の利益は年間五、九九八万円余なる厖大なものではなく、昭和四一事業年度においても営業外利益を除く営業利益は年間僅かに一七九万余円(一日一車当り概算一二〇円)にすぎない(甲九号証ノ三、二頁参照)。而も右も繰越赤字繰入のため同年度においては尚三二七万余円の次年度繰越赤字を生じるに至つている。

相手方のいう申立人提出の営業報告書に記載された一車一日平均売上なるものは休車も全て否めた平均であり、実車一日当りの営収は更に増加するといわねばならない。

別紙(四)

意見書

意見の趣旨

本件申立を却下する。

との裁判を求める。

理由

(申立理由に対する認否)

第一項 認める。

第二項 認める。但し、本件各処分発令書が申立人に交付されたのは、昭和四二年一二月七日である。

第三項(一) 本件各処分が道路運送法一五条及び四三条に基づいてなされたものであること、事業者は運転者らに対し指導監督を義務付けられていること、道路運送法四三条一項は何らの留保なしに運転者の運送引受け拒絶があれば事業者に対し不利益処分に付し得るとしていることは、いづれも認めるがその余は争う。

自動車運送事業に従事する運転者が、乗客の運送引受けをした場合には、その運送引受契約は運転者個人と乗客との間に締結されたものではなく、当該運送事業者と乗客との間に締結されたものと看るべきものであることは多言を要しない。従つて運転者が、運送引受を拒絶した場合は、とりもなおさず当該運送事業者が運送引受の拒絶をしたものとみるべきことは当然のことである。

ところで、申立人は、運転者の運行については、事業者の管理支配が及ばないこと、あるいは、道路運送法一三〇条但書、民法七一五条一項但書を根拠に運送事業者が運転者の行なつた運送引受拒絶行為について道路運送法四三条の責任を負うためには、事業者が運転者の運送引受拒絶に関する指導監督について相当の注意を払わなかつた場合に限られるかの如き主張をしているが、右の如き見解は道路運送法一五条、四三条の解釈として到底とり得ないところである。

(二)(1)  被申立人が従来から運転者の乗車拒否、乗合行為、輸送中断などを理由に一両五日、一両二〇日、五両五日などといつた輸送施設の使用停止処分を運送事業者に対して行なつて来たことは認める。

右のごとき違反行為があつた場合に被申立人がいかなる種類のいかなる程度の不利益処分を課するかは、被申立人の裁量に属する事柄でありその不利益処分の内容についての基準を設定し、これを公表することは法律上要請されていないところである。

しかし乍ら、被申立人においては従来から処分の公正を期するため、内部的に処分内容の基準を定めて処分を行なつて来たものである。

ちなみに、現在における乗車拒否についての処分基準について述べると、第一回目の乗車拒否については四両五日、第二回目については、五両五日、第三回目については、六両五日というように累犯加重の基準を定めており、累犯回数は年度毎に改めることとしている。

この基準は、昭和三九年二月二一日から実施されており、既に東京旅客自動車指導委員会発行の会報(疏乙第一号証の一・二)に掲載されまた新聞紙上(疏乙第二号証)にも報道されたところであつて業界においては公知の事実となつている。

(2)  被申立人が東京旅客自動車指導委員会、東京都公安委員会ならびに旅客等から乗車拒否の通報を受けていることは認める。

東京都内における乗車拒否の一日平均件数が二〇〇〇件であることは不知。その余は争う。

(3)  運転者による乗車拒否を理由に申立人が四両五日、九両五日という輸送施設の使用停止処分を受けたこと、申立人の保有車総数が四二両であることは、いずれも認める。その余は不知。

但し、現在都内のタクシー会社における一車一日平均の総収入は約一万円余りであることは認める。

第四項 (申立理由補充書による補充主張も含む)

本件処分のうち一は本年一月二〇日より五日間、他は同月二五日より五日間それぞれ車両四両または九両を停止せしめるものであること、申立人会社の税込利益が昭和三九年度二〇九万四、三四三円、昭和四〇年度三三一万一、三五九円、昭和四一年度四五八万一、三一四円であること及び増車許可の際に過去の処分歴が考慮されることは認める。その余は争う。

(被申立人の主張)

一、本件申立は、本案について理由がない。

申立人は、〈1〉申立会社の運転者桑名通浩(担当車両品川五う三八六〇号車)が昭和四二年二月一三日二一時頃東京国際空港内国際線前タクシー乗車場において旅客運送引受を拒絶したこと、〈2〉申立会社の運転者高橋雅男(担当車両品川五う三三四二六号車)が同年四月二八日一六時一五分頃大井競馬場前で旅客の運送引受を拒絶したこと、〈3〉申立会社の運転者日向誠(担当車両品川五う三六五八号車)が同年六月二日二三時四五分頃港区新橋四ノ二二ノ四地先において旅客の運送引受を拒絶したことをいずれも認めている。

そして、これらの運送引受拒絶については何ら正当な理由がなくいずれも違法な乗車拒否であることは明らかなところである。

(疏乙第三号証の一、二、四号証の一、二、三)

申立人は前記各運転者の運送引受拒絶については、相当な指導監督を払つて来たから本件各停止処分によつて責任を追及されるべき筋合のものではないと主張しているが、前述した如く道路運送法一五条、四三条の解釈としてかかる免責事由を認めることはできない。

また、申立人は本件停止処分が権限濫用であると主張しているが、左様な事実は認められず、本件停止処分を取消すべき違法事由は何ら存しない。

なお、近時乗車拒否に対する社会的非難は顕著なものがあり、運送事業者自身においても乗車拒否に対する処分を強く望んでいるところである。(疏乙第五号証の一、二)。

二、申立人には、回復の困難を避けるための緊急の必要がない。

申立人は昭和四三年一月二〇日から同月二九日までの間に延六五両の休車によつて約六九万円の直接的経済損失をこうむると主張しているが、この損失額は申立人の主張する基礎計数からは算出し得ないものである。

即ち、申立人主張の計数に基づいて本件各停止処分の期間における得べかりし利益の喪失額を算定すると次のとおりである。

1車1日平均収入額 経費 燃料費 1車1日平均利益

11,500円-{(11,500円×53%)+(11,500円×12.5%)}= 3967.5円

1車1日平均利益 月間総利益

3,967.5円×30円×42両 = 4,999,050円(年間総利益59,988,600円)

1車1日平均利益 休車延数

3,967.5×65両 = 257,887.5円

即ち、申立人会社月間総利益四九九万九、〇五〇円、年間総利益五、九九八万八、六〇〇円に対し本件停止処分により申立人が喪失する得べかりし利益は二五万七、八八七・五円に過ぎないのである。

次に、売上金額による検討をしてみると、

1車1日平均売上 月間平均総売上

11,500円×30円×42両 = 14,490,000円(年間平均総売上173,880,000円)

となり、本件停止処分による喪失売上額は、

11,500×65両 = 747,500円

となる。即ち申立人会社の月間総売上は一四四九万円年間総売上は一億七、三八八万円であるのに対し本件各停止処分によつて申立人が喪失する売上げは七四万七、五〇〇円にすぎないのである。

右の如く、本件各停止処分によつて申立人が喪失する得べかりし総利益あるいは総売上額を申立人の月間及び年間における総利益あるいは総売上と対比してみるとき、本件各停止処分によつて申立人が回復困難な重大な損失をこうむるとはとうてい認められない。

なお、申立人の「自動車運送事業営業報告書」(疏乙第六号証)によれば申立人会社における一車一日平均売上は一万九五七円であり、一車一日平均利益は九四七円となつている。

次に、申立人は、本件停止処分によつて業界及び運転手仲間において信用を失墜し、優良運転手の招〇が困難になること、あるいは将来における増車許可において不利益を受けることなどをあげているが、これらの不利益が回復困難な重大な損害にあたらないことは明らかであるが、更に本件各停止処分の執行が停止されたからといつてこれらの不利益が当然に回復されるべき性質のものではない。

本件各停止処分の執行を停止してみたところでその執行停止決定の効力によつてこれらの不利益が当然排除されるものではない。それは、本案の結果にかかつているものというべきである。

以上により、申立人には、本件各停止処分の執行を停止すべき回復困難な損害を免れる為の緊急性がない。

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